Site icon  医薬品コンサルタント: 開発から承認取得迄をサポート!

5)医薬品の開発に必要な「国際共同治験」を知る!

              医薬品コンサルタント, 開発, 承認取得,
                                                                        今回のテーマは、「国際共同治験」という事ですが、あまり聞いたことがありませんが、どういう治験ですか?

                                                        確かに、一般の方はご存じないと思いますので、ここまでの歴史も含めてお話したいと思います。

  第5回目は、国際共同治験が行われるようになった経緯を、4つの段階に分けて説明したいと思います。

(1)1985年以前は、日本人の治験データのみで申請。
(2)1985年に厚生省薬務局通知が発出され、一部、外国人の治験データも申請に使用。
(3)1998年にICHa)指針が合意され、日本人の治験データと外国人の治験データを活用して申請を実施。
(4)2007年に厚生労働省医薬食品審査管理課長通知が発出され、国際共同治験の基本的な考えが示され、国際共同治験への参加が推進。

a) ICHとは、医薬品規制調和国際会議(International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use)のことで、薬事規制の国際標準化を推進する非営利法人です。各国の規制当局や業界団体が参加して、医薬品の品質・有効性・安全性の評価などに関わるガイドラインを協働して作成しています(平成27年に法人となり、参加メンバーも、当時、日本、米国、EU、スイス、カナダの規制当局と日本、米国、EUの製薬業界団体の他、オブザーバーとしてWHO及びIFPMA[国際製薬団体連合会]で構成されていた)。

  それでは順に、もう少し詳しく説明します。

(1)1985年以前は、日本人の治験データのみで申請。
・1985年以前では、海外ですでに治験が実施され効果、安全性に問題がなく、申請・承認されている医薬品であっても、日本で新薬候補品を開発するためには、海外で行っている治験と全く同じ内容の全ての試験を日本人を対象にして実施し、問題がなければ申請するという方法が行われていました。

(2)1985年に厚生省薬務局通知が発出され、一部、外国人の治験データも申請に使用。
・1985年に厚生省薬務局通知「外国で実施された医薬品等の臨床試験データの取扱いについて」が発出され、一定の要件を満たすものは、承認審査資料として申請に用いられる事になりました。但し、当時は、日本人における薬物動態に関するデータ、投与量設定に関するデータ、並びに比較臨床試験のデータも併せて提出する必要がありました。

昭和60年6月29日薬発第660号厚生省薬務局長通知
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta7049&dataType=1&pageNo=1

(3)1998年にICH指針が合意され、日本人の治験データと外国人の治験データを活用して申請を実施。
・1998年にICHにおいて、医薬品の作用に対する日本人と外国人の人種差、並びに日本と外国の環境の違い、医療実態の違い等(民族的要因と呼ばれている)を評価し、外国臨床試験データの利用を促進するICH指針(ICH-E5ガイドライン)が合意され、ICH指針に基づき科学的に必要と考えられる国内臨床試験データと共に、出来るだけ外国臨床データを活用して申請出来ることになりました。

PMDAサイト:外国臨床データを受け入れる際に考慮すべき民族的要因についての指針
https://www.pmda.go.jp/int-activities/int-harmony/ich/0027.html

・これは、「ブリッジング試験」という治験に相当するもので、日本人の健康成人男性で薬物動態試験(臨床第Ⅰ相試験)と患者さんにおける用量設定試験(臨床第Ⅱ相試験)を実施し、 これらのデータを外国人の相応する試験のデータと比較して、大きな違いがなければ、民族的な要因は影響していないので、臨床第Ⅲ相試験(二重盲検試験)は外国人 のデータを用い、日本人では実施せずに申請するというものです。

(4)2007年に厚生労働省医薬食品審査管理課長通知が発出され、国際共同治験の基本的な考えが示され、国際共同治験への参加が推進。
・2007年に審査管理課長通知「国際共同治験に関する基本的考え方」が発出され、国際共同治験に関する基本的考え方が示され、企業における検討を促進し、日本の国際共同治験への積極的な参加を推進する事が求められました。

平成19年9月28日薬食審査発第0928010号:国際共同治験に関する基本的考え方
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb3594&dataType=1&pageNo

・当初は、日本人での臨床第Ⅰ相試験の必要性、患者さんでの臨床第Ⅱ相・用量設定試験の必要性、国際共同治験に参加する場合の日本人の患者さんの割合の決定方法、海外では承認されている治験で用いられる対照薬や基礎となる併用薬剤が、日本では承認されてない場合の対応等、いろんな面で実施上の問題が見られましたが、種々の対応が検討されました。
・国際共同治験は、新薬候補品を早期に世界中で使用できるように、複数の国又は地域で、同時に実施する治験で、主に、臨床第Ⅲ相臨床試験で実施されることが多く、世界中の多くの患者さんが参加することになります。近年では、世界中の患者さんが医薬品をより早く利用できるように、世界規模での薬事戦略が治験の効率的な計画及び実施を目的として活用されています。
・最近、治験の中でも、国際共同治験による開発がかなりの割合を占めてきた背景として、開発コストの削減、各国市場への早期導入、他民族のデータの受け入れ推進、標準的な非臨床試験の重複実施の回避、臨床治験のICH E17「国際共同試験ガイドライン」の活用、各国収集症例数の削減等多くのメリットによるものと考えられます。日本が国際共同治験に参加する際、早期申請・承認取得、海外データの活用、ドラッグ・ラグの解消等のメリットが多いものの、一方で、治験開始までの準備期間の長期化、初期投資額の増加、日米欧同時申請の場合、時間とリソースがかなり切迫する事(例えば欧米で作成された申請資料CTD(コモン・テクニカル・ドキュメント)では、日本特有な記載事項がかなりあるので、書き直し・追記作業にリソース が必要な事等の問題も生じることから、日米欧で申請時期を多少ずらす等の工夫も検討する必要があると言われています。

・尚、国際共同治験は、全ての地域及び施設で ICH E6 ガイドライン(いわゆるICH-GCP)で述べられている国際的なGCP基準を遵守して行わなければならず、これには実施施設が規制当局によるGCP査察に応じることが求められています。

CTDというのは、どういうものですか?

CTDについては、次回の「承認申請」のテーマの際に詳しくお話ししますが、コモン・テクニカル・ドキュメント(Common Technical Document)と呼ばれるものです。この資料は、承認申請する医薬品の品質、非(前)臨床試験、臨床試験等に関する情報を纏めるための申請様式で、日米EUで国際的に共通化した資料のことです。

 

【今回の話の纏め】

  国際共同治験は、新薬候補品の世界同時開発を促し、世界各地でこれ迄別々に実施されてきた治験の数を減らすことが出来る事から、不要な重複を避けることが出来るようになりました。また、複数の国や地域において、より速い承認申請を行う事が出来るようになり、新薬候補品をより早く患者さんに届けることが出来るようになりました。日本では10年以上前に、ドラッグ・ラグと言って、世界の他の国では既に優れた医薬品が承認され、発売されているのに、日本では開発すらされていないことから、その医薬品を使用できない時期がありました。国際共同治験が、段々普通に行われるようになってから、新しい医薬品の同時開発、同時申請が可能となり、これ迄問題となって来たドラッグ・ラグがだいぶ解消されてきました。また、これ迄は欧米との国際共同治験がなされてきましたが、現在は日中韓等の東アジア地域における国際共同治験が増加しており、これらの治験が円滑かつ適切に実施できるような体制が確立しつつあります。

                                  医薬品コンサルタント, 開発, 承認取得, 

Exit mobile version