3)医薬品の開発に必要な「非臨床試験」を知る!

                                                   今回は、どのような事を、教えて頂けるのですか?

                                                          今回は、新薬候補品が見つかって、ヒトを対象とした臨床試験の間に行われる非(前)臨床試験と呼ばれる段階のお話しをします。

 第3回目は、非(前)臨床試験として次の4項目について説明します。

 以下のような、試験管内、あるいは動物を用いた基礎研究を詳細に実施して、ヒトに対して有効で安全に投与できる候補品かどうかを推定するための重要なフェーズになります。

     (1)新薬候補品の合成、分析、並びに原薬の製剤化の検討について
     (2)一般毒性試験及び特殊毒性試験について
     (3)薬効薬理試験及び安全性薬理試験について
     (4)薬物動態試験について

それでは、順番に説明していきます。

(1)新薬候補品の合成、分析、並びに原薬の製剤化の検討について
① 新薬候補品の合成、分析方法等の検討
・新薬候補品(ここでは効果のある成分を原薬と呼びます)の合成方法の確立、安定した製造(収率の向上)、製造量の増大方法(スケールアップの方法)を検討します。また、同時に原薬の物理学的化学的特性(溶解性、吸湿性、結晶形、安定性等の様々な性状)を確認し、目標とする原薬が常に確実に製造されていることを確認するための規格試験、確認試験、定量試験、安定性試験等の各種の分析方法の確立(品質を確保するための作業)、評価を行って、安定製造、安定供給を目的とした検討が行われます。
                                     
② ヒトに投与する際の製剤の検討   
・新薬候補品をヒトに投与するためには、それぞれの候補品に適した投与経路(経口投与、静脈内投与、皮下投与、筋肉内投与、経皮吸収投与、点眼等)を検討し、すなわち、どのような経路で投与すると効果が確実に発揮され、副作用が少ないかを検討した上で、それに適した製剤を作成する必要があります。製剤中には効果(薬理作用)を持った成分に加え、それぞれの製剤を作成する際に必要となる効果(薬理作用)を持たない添加剤(安定化剤、賦形剤、コーティング剤、結合剤、保存剤、崩壊剤等)を加えて、ヒトに投与するのに適した製剤の設計・開発を行うことになります。最終の製剤は、1回目のテーマでお話した「臨床第Ⅲ相試験」の開始前までには完成している必要があります。また、製剤についても、原薬と同様に、品質を確保するための、各種の分析試験の確立、評価、安定性試験も実施する必要があります。

                                                       これまでの話で、有効性とか、効果とか、薬理作用とかいろんな言葉が出てきますが、どのように違うのでしょうか?

                                                  分かりずらかったですね! この世の中には、いろんな物質がありますが、動物やヒトに対して、何らかの影響を及ぼす作用を持つか持たないかで薬理作用があるかないかという使い方をします。その薬理作用が、ある病気を回復・改善するような場合には効果が見られた、あるいは有効性が見られると言っています。

(2)一般毒性試験及び特殊毒性試験について
① 一般毒性試験
 一般毒性試験については、次の5試験について説明します。

・単回投与毒性試験
  いずれかの試験から急性毒性の情報が得られる場合には、別途単回投与試験を実施する事は推奨されていませんがa)、過量投与時の影響を予測するため、臨床第Ⅲ相試験開始前には実施しておく必要があります。

a) 環境省が制定した「動物愛護保護管理法」により、動物を用いた試験を行う場合には、動物実験の3R(使用動物数の削減/苦痛の軽減/代替え法)の原則に従う必要があるため、試験項目、実施時期には、お薬の内容に応じて、試験内容を考慮する必要があります。

(環境庁の資料)
https://www.env.go.jp/council/14animal/y143-21/ref01.pdf

・反復投与毒性試験
 原則として、臨床開発中は2種のほ乳動物(1種はげっ歯類、1種はウサギ以外の非げっ歯類b))で実施され、その試験の期間は、臨床試験(治験)の期間と同じか、あるいはそれを超えている必要があります。また、承認申請時の最終データとしては、臨床における使用期間に応じた投与期間で試験を実施する必要があります。


b)
げっ歯類とは、哺乳類の中のネズミ目の事で、マウス、ラット、ハムスター、リス等を代表とする動物群で、上下に一対ずつの門歯があり、絶えず伸び続けるので、歯がなくなることがないものを言います。非げっ歯類は、動物試験で用いられるのはイヌ、サル、ウサギ、ミニブタ等になります。

・生殖発生毒性試験
 臨床開発を進めるためには、一般的に以下の3種類の試験により、生殖発生毒性の評価が行われています。
ⅰ)受胎能及び着床までの初期胚発生に関する試験
ⅱ)2種の動物種を用いた胚・胎児発生に関する試験
ⅲ)出生前及び出生後の発生並びに母体の機能に関する試験

・遺伝毒性試験
 遺伝毒性試験は、新薬候補品の発がん性や遺伝的障害を短期間で予測するためのスクリーニング試験です。新薬候補品を反復投与する場合には、細菌を用いる遺伝子(復帰)突然変異試験(Ames試験)、染色体損傷(異常)試験をヒト試験の開始前に実施する必要があります。また、標準的に実施する他の遺伝毒性試験である小核試験は、ヒトの臨床第Ⅱ相試験の開始前に完了しておく必要があります。

・がん原性試験
  がん原性評価の必要な新薬候補品おいては、通常実施されている従来の2種のげっ歯類(マウス、ラット)による長期がん原性試験の代わりに、一種の長期がん原性試験に加えて、新たな短期・中期in vivoげっ歯類試験(遺伝子改変動物を用いた短期がん原性試験等)をもう一つ実施することにより発がん性を評価することが基本的になってきています。長期投与試験の場合は、承認申請迄に完了するように求められています。

② 特殊毒性試験
・皮膚一次刺激性試験
 ヒト皮膚に接触する可能性のある新規候補品の皮膚刺激性を調べる局所刺激試験です。

・免疫毒性試験
 免疫臓器の重量測定、血液学的検査、病理組織学的検査などから免疫毒性の有無を推測するための試験です。

・発熱性物質試験
 発熱性物質試験では、新薬候補品をウサギの静脈内に投与し、直腸体温の変化を測定し、発熱性物質の有無を調査する試験です。

・エンドトキシン試験
 エンドトキシン試験では、発熱性物質の中でも、特にエンドトキシンを検出する試験法です。

(3)薬効薬理試験及び安全性薬理試験について
① 薬効薬理試験
・薬効薬理試験は、病態モデル動物等を用いて新薬候補品が対象とする疾患に効果があるかどうか、どの位の量(用量)で効果が発現するか、効果と用量の間に相関性はあるか、効果の発現に再現性はあるか、推定最小薬理作用量はどの位か、効果を示すのはどのようなメカニズムか、構造式のどの部分が効果に寄与しているか、主な代謝物に同じような効果があるか、効果はどの位持続するか等、新薬候補品の薬理作用の発現について、詳細に検討を行います。

② 安全性薬理試験
・安全性薬理試験としては、主要な生理機能となる中枢神経系、心臓血管系、呼吸器系、消化器系、生殖器系等に及ばす影響を明らかにするための試験を、ヒト試験が開始される前に完了させておく必要があります。

(4)薬物動態試験について
・薬物動態試験とは、新薬候補品が体の中に取り込まれて(吸収)、身体のどの部分に集積し(分布)、どのように無毒化され(代謝)、身体の外に出ていく(排泄)かを検討する動物を用いた試験です。
① 吸収
・典型的な例として、新規候補品を口から飲んだ場合、どの位の割合が腸管から吸収されて血液中に入るか(生物学的利用率)、飲んでから最も高い血中濃度になるにはどの位時間が掛かるか(最高血中濃度到達時間)、最高血中濃度はどの位の量か(Cmax)、服用した用量と最高血中濃度に比例関係はあるか、どの位の時間で体の中からなくなっていくか(消失時間)、さらには薬効薬理試験で検討した推定最小薬理作用量はどの位の血中濃度か、それは1回投与した場合に、どの位持続するか等を検討します。

② 分布
・ 体の中に吸収された新規候補品の成分は、どの臓器にどの位の量が集積するか、どの臓器に多くの量の成分が集積しているか、各臓器から濃度が下がるのにどの位時間が掛かるか、安全性薬理試験の結果と各臓器の集積度合いに関連性はありそうか等を検討します。

③ 代謝
・新規候補品の成分も、ヒトの身体にとっては、異物になりますので、ヒトはそれを体の外に出すための仕組みを持っています。典型的な方法としては肝臓に薬物代謝酵素があって、体の中の異物を無毒化(代謝)する働きをします。新規候補品の成分は、代謝を受けて、分解していきます。

④ 排泄
・代謝を受けて小さな成分になったものは、尿、糞、呼気、皮膚等を介して身体の外に排泄されていきます。

  尚、上記の非(前)臨床試験のうち、主に安全性に関係する試験については、臨床における副作用の面で重要な情報が得られる事から、主要な試験は「医薬品等の安全性に関する非臨床試験の実施の基準に関する省令に示された基準」(通称GLP省令 : Good Laboratory Practice)を遵守した試験であることが求められ、実施した試験はPMDAによる信頼性保証に関する調査が行われます。一方,薬効薬理試験や薬物動態試験に関しては、GLP 試験として実施する必要はありませんが、一般に「信頼性の基準」と呼ばれる一定の基準に従って実施する必要があります。ちなみに似たような用語として、後日出てきますが同じような信頼性保証業務としてGCP(臨床試験の実施の基準に関する省令に示された基準 : Good Clinical Practice)、GPSP (製造販売後の調査と試験の実施の基準に関する省令に示された基準 :  Good Post-marketing Study Practice )、GMP (医薬品等の製造管理及び品質管理の基準 : Good Manufacturing Practice)等があります。

GLP、GCP、GPSPの信頼性保証業務(PMDAのサイトより)
https://www.pmda.go.jp/review-services/inspections/0001.html
GMP適合性調査業務(PMDAのサイトより)
https://www.pmda.go.jp/review-services/gmp-qms-gctp/gmp/0001.html

省令とは法律とどう違うのですか?

日本の法体系は、憲法のもとに、法律(国会が制定)⇒ 政令・施行令(内閣が制定)⇒ 省令・施行規則(各省庁の大臣が制定)、さらに、法令ではないものの、告示・通達・通知(各省庁の組織の長、局長・課長等が発出)の階層で成り立っています。省令は、法律で制定された事を、さらに具体的にしたもので、法律と同様の規制です。

【今回のお話の纏め】

  新規候補品といっても、ヒトにとっては異物になります。疾患に対する効果(薬理作用)を有していたとしても、強い副作用があるものは「お薬」にはなりません。「お薬」になる候補品は、ベネフィット(効果)が、リスク(副作用)より明らかに優れていなければなりません。逆に言えば、「お薬」は、どんなものでも、副作用が出る可能性はゼロではありません(「お薬」と言えども、ヒトにとっては異物である事には変わりはないからです)。従って、「お薬」は、常に各々の疾患に対してベネフィットーリスクを考慮して、そのヒトにとって、ベネフィットがリスクを上回るときに使用する事が一番重要です。本日お話しした非(前)臨床試験は、そのヒトに対するベネフィトとリスクを明確にするために、品質、有効性、安全性を明らかにするために行う試験になります。