ドラッグ・ラグの再燃 ?


ドラッグ・ラグとは、新規医薬品が欧米では既に承認され使用されているのに対し、日本では未承認、ないしは発売時期が遅れるという問題であるが、2010年前後に、この問題を解決するため、「新薬創出・適応外薬解消等促進加算の導入」、「医薬品の審査期間の短縮」や「国際共同治験での世界同時開発・同時申請」等を、厚労省、医療関係者、製薬企業が精力的に取り組んだ結果、大きく改善に向かっていった。
しかしながら、最近の政策研の調査結果によると、新規医薬品の国内未承認の割合は2016年に56%であったものが、2020年には72%と年々増加してきており、ドラッグ・ラグの再燃を危惧する声が出始めている。
その原因は、現在調査・分析中とのことだが、1つは海外の製薬企業から見て日本の薬価制度(新薬創出加算や市場拡大再算定等)を巡る環境が厳しくなっており、日本に投資するインセンティブが低下している事が挙げられている。次に考えられる事として、国立がん研究センターの調査によると、国内未承認のうち、かなりの部分を抗ガン剤が占めており、これは日本法人を持たない海外の新規のバイオ医薬品企業が抗ガン剤を開発していることが影響していると考察している。3つ目に考えられる事として、最近、国際共同治験から日本を外す動きが見られ始めているが、これは、日本の治験(参考)は、他国と比べて患者さんの集積スピードが遅いこと(そのため、多くの参加施設、及びCRA[臨床開発モニター]等が必要になる)、その結果、患者さん一人当たりの治験費用の額が他国と比べてかなり高いこと、また日本では品質の面でも実施計画書からの逸脱が生じる率が高いことから、他国と比べて、コスト・パフォーマンスが低いことと先に述べた薬価制度の不合理性が相まっての動きと考えられる。
以上のような事柄が、ドラッグ・ラグの再燃の要因として考えられるが、日本の薬価制度の問題は、医療費支出の抑制上厳しい状況にあるが、新薬開発のイノベーションは維持出来るような施策は組み入れてほしい。海外の新規バイオ医薬品企業は、最近活発に、日本のCRO(開発業務受託機関)に対して「国内管理人」の依頼が寄せられており、改善が期待できる。日本の治験のコスト・パフォーマンスが低いことは、以前から指摘されているが、治験中核病院、治験拠点医療機関の拡充、リスクベースドモニタリング(RBM)、中央モニタリング、リモートモニタリングの利用向上等により、治験の効率化が図られているが、それらの成果、精度を高めることで、コスト・パフォーマンスの向上を図り、海外企業の日本への投資離れを抑えることが出来れば、ドラッグ・ラグの再燃は避けられ得ると考えられる。政策研の調査分析と政府の対応に期待したい。

(参考)
日本の治験の場合、殆どの場合、治験参加医師は、外来、病棟診療、出先機関での診療、医局会、論文作成等に極めて忙しく、治験は、その合間に治験協力者の援助を受けて、わずかな時間で対応しているのが現状と考える(臨床第Ⅰ相試験の専門施設は除く)。また、治験を行う事への医師個人への報酬は基本的になく、あくまで新たな治療方法確立という社会的貢献のみがインセンティブになっている。一方海外では、治験だけを行う病院、施設があること、1つの病院で多くの患者が集められること、治験をビジネスとして、医師が報酬を受けられる場合も多いこと等、日本と海外では治験環境や参画意識に違いがみられる。